ノバク・ジョコビッチはなぜ強いのか 徹底解説【超高速カウンターテニス】

選手解説

ジョコビッチ本当に強いですね。常に安定してトップにいますが、ぱっと見派手なプレーがあったり、わかりやすい強みがあるタイプの選手ではないので、なんでこの選手がずっとトップなのだろう?と疑問を持つ方もいらっしゃると思います。そんな方々のために、今回はテニスオタクが強さを徹底的に解説します。

この記事でわかること

  • ジョコビッチの強さ
  • ジョコビッチの戦力分布詳細
  • ジョコビッチが得意とするローリスク・ハイリターンな展開

10段階評価の考え方

選手評価の記事では共通して以下の10段階評価を用いて解説していこうと考えています。

★×1 :ATPツアー内で最下位レベル
★×2 :ATPツアー内で下位レベル
★×3 :かなりのウィークポイント:相手は積極的に狙う
★×4 :ややウィークポイント:相手は余裕があれば狙う
★×5 :世界で標準的なレベル
★×6 :世界で100位レベル
★×7 :世界で30位レベル
★×8 :世界で10位以内レベル
★×9 :世界でトップレベル
★×10:世界No.1レベル

能力評価

フォアハンドストローク:★★★★★★★★☆☆
バックハンドストローク:★★★★★★★★★★
サーブ        :★★★★★★★★☆☆
リターン       :★★★★★★★★★★
ネットプレー     :★★★★★★☆☆☆☆
タッチ        :★★★★★★★★☆☆
パワー        :★★★★★★★★☆☆
スピード       :★★★★★★★★★★
戦略         :★★★★★★★★★☆
キャッチコピー    :超高速カウンターテニス

素晴らしいバランスです。まさに世界No.1にふさわしいステータスです。誰しも苦手な展開やショットがあるはずなんですが、ジョコビッチには弱点らしい弱点がありません。相手からするとコートのどこにいても、自分に効果のあるショットを高い精度で放ってくる・・・どうしたらいいんだ・・となる相手だと思います。マニアサイトらしく、各評価について細かく語っていきます。

てにおじ
てにおじ

その盤石のストロークと勝利への執着心で勝利をもぎ取るセルビアンファイター。How To Win を突き詰めた合理的な試合を展開します。派手なプレーは多くなく、着実にポイントを積み重ねて戦うタイプです。

フォアハンドストローク

癖のない非常にきれいなフォアハンドです。基本はフラットドライブ系の球質でラリーを組み立てていますが、リズムを下げる際にムーンボールを使用する、リズムを上げるためにコート内に入ってタイミングを上げる、角度をつけて起点を作るためにクロスコートへスピンで追い出す、すべてをこなす非常にレベルの高いフォアハンドです。

↓の図のようにフォアサイドからはどこへも打ち分けることができます
(オレンジがスピン系、赤がフラット系)

回り込みフォアハンドを使った攻撃もコートのどこへでも展開することができ、本当に癖のないきれいなフォアハンドです。

バックハンドストローク

完璧です。バックハンドでもフォアハンドと同様に球質を自由に打ち分けられています。両手バックハンドの性質上スイングの自由度が低く、普通はフラット系の球質に寄りがちなのですが、ジョコビッチの場合は両手バックハンドの自由度の低さを感じさせないバックハンドになっています。
クロスに深く沈める基本的なフラットドライブ、クロスに追い出すショット、ダウンザラインへの展開などどれも一級品です。
また、バックハンドダウンザラインにおいては、エースを取りに行く際と、展開を目的とした際とで体の使い方が変わるのもかなり特徴的で、展開を目的としたダウンザラインを使用する際には右肩をかぶせ気味にし、体の使い方でコースが相手にわかってもよいから、よりプレースメントを重視する。というような意識が見られます。
逆にエースを取りに行く際にはクロスへも打てる体勢からダウンザラインへ展開しています。

バックは主にストレート方向へはフラット系、クロスへはスピンフラットともに打ち分けているという印象です。

サーブ

サーブの評価もフォアと似ています。特筆した何かがあるというよりも、どの球種、どのコースでも打ち分けられる優等生タイプのショットです。
サービスキープ率も毎年85%くらいを維持しており、キープ率のランキングも10位くらいです。
世界No.1なのにサーブは10位なのか、、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ストロークを主体とするタイプの選手としては十二分です。なぜならキープ率ランキング上位を占めるのは基本的にタイブレーク上等のビックサーバー達だからです。
ジョコビッチはそういったビックサーバー達とは違い、セットの中で何度もブレークするチャンスを作り出すことができます。それに世界10位前後のキープ率も加わると非常に安定して試合を進めることができるでしょう。
また、ジョコビッチは特にセカンドサーブの質が高いです。以前はダブルフォルトのやや多い選手だったのですが、近年は非常に改良されていて、相手がリターンからポイントの起点を作りづらいところへしっかりと配球できており、相手からするとセカンドサーブのアタックチャンスなのにそれほど有利に展開できる場面が作れない・・・と悶々とします。

リターン

めちゃくちゃうまいです。ジョコビッチのリターンはその深さが特徴的で、リターン単体でエースになることはそれほど多くないものの、リターンの次の配球をしやすくする質のいいリターンが多くみられます。ここも派手さはないのですが、相手にとっては3球目攻撃ができず、サービスゲームをリズムよく進めることのできない要因になっています。リターンゲーム獲得率も安定してトップ3をキープしています。
また、コートの外に出されるデュースサイドのワイドサーブに対しても飛びついてリターンをしたり、スライスのブロックリターンを混ぜたりして対応し、3球目攻撃を常に防ぐリターンをし続けています。

ネットプレー

普通です。ネットプレーで勝負するというよりも、出るべきところでしっかり出てポイントを終わらせるタイプの使い方をしています。ネットポイント率は高いことが多いですが、ポイントをとれるときにしかネットに出ないというプレイスタイル上、スキルとの相関関係はそれほどないです。むしろネットのうまいタイプの方がネットアプローチが多いので、確率は下がり気味になります。

タッチ

ボレーは普通なのですが、タッチショットは非常に有効に使えています。ドロップショットが有効になりやすいクレーコートやグラスコートだけでなく、比較的ドロップショットの機能しづらいハードコートでも効果的につかえています
ドロップショットはバックハンドから放つことが多く、コースはクロスもストレートもいずれも相手に合わせて使用しています。
特に戦略の中にドロップショットを多く取り入れるのは対ナダル時です。
コート後方からのプレイが主となるナダルに対し、本来の位置でプレイしづらくさせるためドロップショットをよく使っており、ナダルのバックにあたるストレート方向へドロップショットを打っています。

逆にドロップショットへの対応も非常にうまく、特に切り返しをショートクロスへコントロールするスキルが非常に高いです。(ネット付近からショートクロスへのコントロールはとても難しい)

パワー

パワータイプの選手ではありませんが、パワーがない選手でももちろんなく、パワーがなくて負けたという場面というのはほとんど見ない(私がそう感じたのは2015年の全仏決勝 対ワウリンカ戦とクレーでの対ナダルくらい)選手です。

自分よりパワーのある選手に対しても、持ち前のプレースメントの良さなどを駆使して、打ち勝つような場面も多く見せるので、つくづくテニスにおけるプレースメントの重要性を感じさせます。

体格的にも190センチ近くあり、テニスをするうえで最も理想的なサイズで、特に問題を感じません。

スピード

非常にスピードのある選手です。身長190cmくらいの大きな選手であることを感じさせない細かくて速いステップを持っており、相手にエース級のショットを打たれた際でもしっかりと追いつき、持ち前のボディバランスも活かしてぎりぎり追いついたとは思えないショットを返します
そして切り返しのフットワークも非常にうまいので厳しい体勢でも一発逆転のカウンターを狙うことは少ないです。

あくまで基本に忠実に「1本返したそのあと、さらにそのあとも」守り続けることができており、本当になかなか打ち崩すことのできないディフェンス能力を持っています。

また、予測も非常によく、一度は決まりかけたシチュエーションも予測を駆使して守り切り、ラリー戦に引きずり戻すこともよくあります。単なる足の速さだけではなく、スピードとしての総合能力が非常に高いです。

戦略

一見すると展開が派手ではないのでわかりづらいですが「いかにリスクを減らし、リターンを高くするか」を追求した戦略をとっていることがよくわかります。特徴的な戦略を3つご紹介します。

センターセオリーの利用

これは非常に有名な話です。ジョコビッチは試合の中でセンターへの配球を非常にうまく利用しています。センターへの配球で最も良くない球種は「浅くてふんわりした球種」です。彼らクラスになるとフォアハンドはコートの中から構えて打てば大体エースになってしまうので、そのリスクを避けるため、比較的直線的な球を「本当に苦しくなる1歩手前」くらいで使っています

というのもコートの遥か外まで追い出された状況からであれば、時間を作るリカバリーショット以外ではオープンコートに展開されて終わってしまうので、そうなる一歩手前「少し展開で負けていそうだ」くらいのところでセンターへ深くて低いボールを配球し、状況をイーブンに戻しています。

有名な話ではありますが、かなりちゃんと見ていないと気づけないポイントですね。ぼーっと見ていると、なんで相手の選手はセンターから展開できるのに攻めあぐねているんだ?と思ってしまいますが、少しラリーを優位に進められてきたタイミングで状況をリセットされるので、うまく攻められません。

タイミングを上げたストレートへのムーンボール展開

私はATPツアーオタクなので、多くの選手を見ていますが、この展開を使う選手はジョコビッチ以外ではほとんど見ません。
フォアサイドからストレートへ展開するときですが、展開には一般的に2パターンあって

  1. コートの中に入って直線的なボールで時間を奪う展開
  2. 位置は変えずにスピンのきいた深いボールで展開

のどちらかですが、ジョコビッチはこのちょうど中間の展開を非常にうまく使っています。
つまり「コートの中に入りながら、スピン量のある深いボールでの展開」です。
この展開のメリットって何でしょう。考えてみます。

①は一見すると最も良い選択肢に見えますが、コースが甘くなった、ボールが浅くなった際には
「自分がコート内にいるためディフェンスしづらい+直線的なボールなので相手から展開されやすい+ネットやアウトのリスクが比較的高い」というリスクを持っています。
一方で②は展開を変えるという要素が大きく、攻撃力のそれほどある展開ではありません。

それぞれを掛け合わせるとどうでしょうか。いいとこどりができます。

  • コート内に入ったことで相手の時間を奪うための攻撃力を持ちつつ
  • スピン量を持った深めのボールなので、アウトやネットのリスクが低い
  • 多少甘くなっても相手のバックであることもあり、それほど一気に劣勢にならない

まさに冒頭に書いた リスクを減らしつつリターンは大きくする の象徴なようなとても合理的な展開ではないでしょうか。特に対フェデラーなど、バックハンドをうまくつかないとポイントを取りづらいようなタイプの選手に対して多くこの戦術を用いています。

ポジションを下げないディフェンス

2000年代くらいまではポジションを上げる=オフェンス ポジションを下げる=ディフェンス というのが一般的な考え方でしたが、フェデラーが台頭してきた2004年や2005年くらいから、テニスが以前よりも高速化していき、それに伴って現れたディフェンス技術です。

今では多くの選手がこの技術を身に着けていますが、ジョコビッチはこの技術にも非常に長けており、苦しい場面でこそポジションを上げる、ライジングで処理するということを選択する場面が多くみられます。

↓の図で示しているのはコート後方で打った場合と、ベースライン上で打った場合の選手の位置の差を示していて、この技術の有用性を示したものです。


このようにコートの隅をつかれたショットに対して、コートの後方でディフェンスを行うと、コートの外にすでに追い出されており、次の配球への対応が非常に困難になります。


一方でベースライン上でこれをディフェンスすることができれば、体はまだギリギリコートの中にあるため、次の配球へも対応を続けることができる、というものです。

もちろんこれは理論上の話であって、実際にコートの隅に追いやられている状況というのは、相手が有利な状況で相手のショットに威力がある+自分の体勢が崩れているという状況なので、その苦しい状況に加えてさらにライジングの技術を掛け合わせるというのは非常に高い技術レベルを必要とします。

しかし、近年の上位選手は当然のようにこの技術を身に着けており、この技術なしには現代の高速テニス置き去りにされてしまう必須スキルになりつつあります。そしてジョコビッチはこの技術を誰よりもうまく使いこなしています。

使用ギア

ラケット:Head Speed Pro のペイントを施した リキッドメタル ラジカルツアー↓ のモールドのプロストック品(昔これ使ってました。2005年の全豪オープン対サフィンなど、ジョコビッチがデビューしたての頃の動画見てみると、使用しています)

ガット:メインアルパワーラフ クロスVSTeam 大体58ポンドくらい
シューズ:アシックス
それ以外:ラコステ(の前はユニクロ、その前はアディダス)

  • すべての技術を高い水準で兼ね備えている
  • ローリスク・ハイリターンな戦略

いかがだったでしょうか。テニスの試合を見るときにはこういったマニアックなお話や戦術も頭に入れながら見ると、10倍も100倍も試合を楽しめると思います!それでは!

コメント

  1. […] メドベデフはATPツアーの選手の中でもポジションをかなり極端に上げ下げする選手です。ディフェンスのためにポジションを下げる、オフェンスのためにポジションを上げる、ジョコビッチの強さ解説の投稿でお話ししたディフェンスのためにポジションを上げる、これらをすべて使いこなしています。 […]

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