錦織圭の強さ 徹底解説【超高速攻撃型テニス】

選手解説

日本の星錦織圭。全米オープン準優勝、ATPツアーマスターズベスト4、オリンピックメダル獲得、最高到達ランキングは世界4位と全てにおいてそれまでの日本人の記録とは全く比べ物にならない凄まじい記録を残している大選手。

しかも当時は全盛期のジョコビッチ、マレー、第二の全盛期を迎えていたフェデラー、ナダルのBIG4を始めとし、小さな巨人フェレール、空気さんことベルディヒ、フランス四銃士、などなど2000年以降最もトップ10に入ることが難しかった期間でもあります。そんな中、外国の選手に比べて体の小さい錦織がなぜ輝かしい成績を残すことができたか、徹底的に解説していきます。

この記事でわかること

  • 錦織の戦力分布詳細
  • 身体の小ささをどのようにカバーして世界で戦ったか
  • 錦織に学ぶ バックハンドの使い方

10段階評価の考え方

選手評価の記事では共通して以下の10段階評価を用いて解説していこうと考えています。

★×1 :ATPツアー内で最下位レベル
★×2 :ATPツアー内で下位レベル
★×3 :かなりのウィークポイント:相手は積極的に狙う
★×4 :ややウィークポイント:相手は余裕があれば狙う
★×5 :世界で標準的なレベル
★×6 :世界で100位レベル
★×7 :世界で30位レベル
★×8 :世界で10位以内レベル
★×9 :世界でトップレベル
★×10:世界No.1レベル

能力評価

2000年以降最もTOP10へのランクインが難しかった2014年からトップ10を5年程度キープした錦織。パワー以外のスキルは非常に高レベルでバランスがとれています。

フォアハンドストローク:★★★★★★★★☆☆
バックハンドストローク:★★★★★★★★★★
サーブ        :★★★★★★★☆☆☆
リターン       :★★★★★★★★★★
ネットプレー     :★★★★★★★☆☆☆
タッチ        :★★★★★★★★★★
パワー        :★★★★★★☆☆☆☆
スピード       :★★★★★★★★★☆
戦略         :★★★★★★★★★★
キャッチコピー    :超高速攻撃型テニス

てにおじ
てにおじ

バックハンドのスキルが高く、リターンゲームの獲得率の高い攻撃型の選手です。試合展開はスピーディなものが多く、観戦していてもとても楽しめます。

フォアハンドストローク

良いです。実はブレイクした当初はバックハンドよりもフォアハンドの方が完成度が高く、錦織自身も自分の武器は当然のようにフォアハンドだと語っていました。デビュー以降はバックハンドのレベルが爆発的に向上し、今ではバックハンドの目立つ選手になりましたが、もともと武器であったということもあり、フォアハンドも非常にレベルの高いクオリティです。

錦織のフォアハンドには代表的な展開のようなものはないのですが、大きな特徴としてテイクバックの速さとコンパクトさがあり、正確な錦織のフォアハンドに大きく寄与しています。特に相手の甘い返球に対するテイクバックの速さは一般プレイヤーも参考にすべき点です。

この形を作るのが非常に速い

一般的にフォアハンドは自由がききやすいことから、テイクバックのタイミングが遅れたり、必要以上に大きくなったりしがちで、それを原因にミスヒットや振り遅れが引き起こされるパターンがとてもよくあります。(両手バックなどでは可動域の狭さからこういった問題はフォアハンドほど起きやすくないのですが)

デビューしたてのアンディマレーやフランスのペールなんかは、テイクバックが必要以上に大きくなっていることがフォアハンドの威力や正確性を低下させる原因になっている代表的な選手だと思います。錦織のフォアハンドにはそういった点がなく、ポジションを作るのも早く、大きくテイクバックを取りすぎたりもしていないことから理想的なフォアハンドだといえます。

バックハンドストローク

この記事を書いている時点(2021年8月)での現役選手ではジョコビッチと並んで世界最高のバックハンドを持っています。さらに攻撃力に絞っていえば、2010年代後半以降は世界トップのバックハンドではないでしょうか。

配球も少し独特です。
クロスコートへはボールの外を少しこするサイドスピン気味のボールを使ってサービスラインとベースライン付近のサイドライン際へしっかりとコントロールし、相手を外に追い出すショットをベースに展開を作っていきます。これは片手バックハンドの選手がよく使う戦術で、スイングの自由度が低い両手バックながらも片手バックハンドさながらの戦術を使えるのはバックハンドを自由自在に操っている証拠でしょう。(詳細は戦術のセクションにてご紹介します)

錦織のバックハンドはコンビネーションももちろん素晴らしいですが、それ以前にボールのスピード、正確性、深さなど必要とされる要素を全て兼ね備えており、ショット単発のクオリティで見た時にもどれも素晴らしいです。

サーブ

この記事を書くにあたって、サービス関連のスタッツや平均スピード、ブレーク数など色々調べてみましたが、実はとびぬけて弱いわけではないということがわかりました。(記事書く前までは★4くらいで書こうと思ってました)

スタッツの良さには少なからず錦織の世界トップのストローク力、展開力が寄与する部分はありますが、サーブは早ければいいわけでもエースが多ければいいわけでもないので、錦織が最もブレイクした年の2014年のサービスキープ率が12位であることを考えると、この評価は妥当かなと考えています。

間違いなくスキルが向上しまくったショットのうちの一つで、デビュー時はそれこそ女子より遅いとか言われてたりもしましたが、今では200キロを超えるサーブも偶にみせサービスゲームではサーブで崩し、3球目で勝負を決めに行くという展開がしっかりと作れるサービス力を持っています。

リターン

相手のセカンドサーブに対するアタックが非常に上手です。ほかにもリターンの名手としてジョコビッチやマレーがいますが、彼らはリターンでアタックする際にはサーバーの足元を突き刺すような深いリターンを打ち、そのあとの展開を有利にするリターンを選択することに対し、錦織は積極的にリターンエースを取りに行くリターンを選択します。

実はリターンゲーム獲得率の高い選手でエースをねらうリターンを使用する選手は現代では錦織くらいしかおらず、どちらかというとサービスゲームの得意な選手がリターンゲームできっかけを作るために使用することが多い戦術です。少し前だとアガシやジェームスブレークがリターンエースをねらうリターンゲームの強い選手でしたね。

現代は各選手のセカンドサーブの技術、さらには3球目を処理する能力もどんどん上がっているので、コースを突くタイプのリターンは有効に機能しづらいんですが、ほんとに上手にリターンします。

特によく使うのが図のバックサイドに跳ねてくるセカンドサーブをストレート方向へ流すリターンです。
これ、ほんとにホントにめちゃくちゃ難しくて、少し打点が遅れればサイドアウトしますし、打点が早ければただ相手のフォアに返しつつ、自分がデッドゾーンにいる状態を作るダメダメリターンになっちゃいます。

このリターンは錦織だからこそできるリターンだと思いますので、見る専門にとどめておきましょう。一般プレイヤーは深く強いボールを返すジョコビッチやマレー式を使うことをお勧めします。
かっこいいんですけど錦織式リターンは難しすぎます。

ネットプレー

タッチ自体はデビュー当初から非常に良かったのでボレーを苦手にしている様子はありませんでしたが(ジュニアのローランギャロスダブルスとってますし)、キャリアを経るごとにボレーを使うパターンが多彩になった印象があります。

デビュー当初は明らかに有利な状況(相手の体勢崩れている+面が上を向いてスライス使いそう)のみネットを取っていましたが、サーブ&ボレーやストローク戦の中で早いタイミングでネットを取るなどポイントを早く終わらせることを意識するようなプレーもかなり多くなりました。

これはおそらくパワーのセクションでも触れる”体力的なディスアドバンテージ”をスキルで補おうとした錦織なりの戦術なのかなとおじさんはとらえています。

タッチ

非常に柔らかいタッチを持っています。
少し前に流行った回り込みフォアハンドのスライスやドロップショットなど、タッチセンスを必要とするショットはとてもうまくこなします。

いい意味で力を抜くのがうまく、試合の中でも遊び心のあるショットを多数織り交ぜている様子がよく見られます。タッチセンスの良さからボールの強弱を操るのも非常に上手です。

パワー

ATPツアーファイナルで撮影された写真なんかをみるととてもよくわかるのですが、単純に上位選手の中では非常に体が小さい選手です。パワーがある選手ではありません

テニスのレベルはどんどん上がり、昔は大型選手といわれていた190センチ近い選手が今やスピードを売りにしてコートを縦横無尽に走り回る時代になっています。そんな中で錦織は180センチに満たない身長で戦っているのですから、パワー不足なんてのは至極当然なことです。
(格闘技で言ったら何階級も違う選手と同じ土俵で戦う必要があるのですから・・・)

錦織は体の小ささを補うために、展開力やプレースメントで勝負したり、ラケット自体もかなりボールを飛ばしやすいセッティングにしたりと様々な工夫をしているものの、やはりパワーの差が出やすい球足の遅いコートは錦織のベストサーフェスにはなっていません。

また、そんな過酷な環境下で自分よりパワーのある選手と戦い続けていることもあり、故障も多くなってしまっています。

でも何度も言いますが、
ATPツアーの超過酷な環境&平均して10センチ以上大きな選手が相手&全盛期がBIG4の活躍期と被る
この環境で試合をし続けてランキングをキープできるくらいの怪我にしかなっていないということ自体、本当に信じられないことです。「また故障かよ」みたいな声を聴くたびにおじさんは悲しくなってしまいます。がんばれ錦織!

スピード

これもデビュー以降凄くレベルが上がったスキルです。

デビュー当時から錦織は超攻撃テニスでセンスを随所に感じさせまくるスタイルだったのですが、守備に回った時の動きのスピードがトップ選手と比べて少し劣っており、ディフェンス力の不足が戦績の不安定さにつながっているように見えました。

しかし年々コートカバー力が向上し、いつの間にかツアー内でスピードのある選手認定がされるまでになりました。もし気になる方は、デビューし始めの2008年(デルレイビーチ優勝した年)と、全米オープン決勝まで行った2014年の動画などを見比べてみてください。

スピードの向上によって、明らかに守備範囲が広がり、カウンターの正確性や攻撃可能なポジションの幅が広がるなど、テニス力全体が向上しています。

戦略

ATPトップ選手の中では非常に小さな体ですが、多彩な戦術を駆使して世界の大男たちを相手していきます。そんなツアー屈指の戦術家錦織の代表的な戦術を3つご紹介します。

バックハンドクロスからの展開

錦織のラリー戦は基本的にバックハンドクロスコートをうまく使った展開が目立ちます。
最も基本的なのは↓の図の展開です。

錦織のボールの少し左側をこするようなトップスピン+若干のサイドスピンのきいたショットはベースラインとサービスラインのちょうど間くらいに角度をつけてボールをコントロールします。このショットはバウンド後もコートの外側へ切れていき、相手を効果的にコートの外へ追い出すことができます。

基本的に相手はコートの外に出されると、クロスにカウンターを打つか、スライスで時間を作るかの2択しか取れなくなります。
この選択肢を強いることができた時点で展開は優位に進められており、

  • クロスへのカウンターに対しては踏み込んで早いタイミングでストレートへ展開
  • スライスに対しては回り込んでフォアハンドで展開

このいずれかの展開を作ることができます。

文字に起こすと簡単に見えてしまいますが、ショットの幅が狭くなりがちな両手バックハンドでこの展開を完璧にこなすことができる選手は世界でもほとんどいません(ジョコビッチもフラット系が多いので、この展開はそれほど多くありません。)。
そもそもバックハンドで相手をサイドに追い出すという戦術は主に片手バックハンドを使う選手(ガスケやワウリンカなど)の戦術なので、両手バックハンドの選手にこの展開が少ないのは当然といえば当然です。

ドロップショット

ドロップショットはほんとにデビュー当初からずーーーっと上手です。
基本的にドロップショットはスライス回転を掛ける都合上、フォアよりもバックの方が得意とする選手が多い中で、錦織はフォアハンドのドロップショットを非常に効果的に使います。

一つ上のセクションでお話ししたバックハンドからの展開で相手のスライス返球を回り込みフォアハンドの形を作り、そこから逆クロス方向へのドロップショットを使う展開がおそらくドロップショットの展開として最も多いと思います。

絵のように錦織のバックハンドによってスライス返球を余儀なくされ、かつフォアで回り込まれてしまった相手はフォアハンドの展開に耐えられるようにポジションを下げつつ、空いたフォアサイドをケアしようとします。
そこへ相手の逆を突くように逆クロスへドロップショットを放つので、進行方向と真逆となり対応がとても難しくなります。

テンポのメリハリ

メリハリと書きましたが、その中でもラリーの中でテンポダウンをさせるのがとっても上手です。基本的に錦織は攻撃的なテニスをしているので、アップテンポな展開が中心ですが、常にアップテンポな展開をしているとどうしても相手はテンポに慣れてきて対応されてきてしまいます。

そこでよく錦織が使っているのはフォアハンドのテンポを落としたループボールです。普通に打てば腰当たりの打点で打てるにもかかわらず、敢えて打点を遅らせてチョリンとスピンを掛けながらストレートに展開するあれです。

テンポを落とすというのはとても勇気のいる選択なのですが、テンポを落とされた相手からすると想定と違うテンポで打点に入る必要があり、それがフットワークを狂わせミスにつながります。
「いつものラリーよりも遅いボールが来て、余裕ができてしまったがために微調整するためのフットワークがおろそかになりミスヒットしてしまう」 という経験はおそらく一般プレイヤーの皆さんにもあると思います。

例えそれがトッププロであっても同じです(頻度は一般プレイヤーよりも全然低いですが)

使用ギア

ラケット:Ultra Tour 95C
ガット:(メイン)ウィルソンナチュラル (クロス)ルキシロン エレメント 40ポンドくらい
ウェア:ユニクロ
シューズ:ナイキ

私はあまり錦織のラケット事情には詳しくないのですが、Ultraのクラッシュゾーンが静止画では確認できないなど、何かしらのプロストック品ではあるようです。

何と言っても錦織のラケットの特徴といえばトップヘビーなバランスですよね。体の小さな選手が世界で戦うためにはボールを飛ばす必要があるとはいえ、かなり独特なバランスのラケットです。
市販品しか使ったことないのでバランスに多少の違いはあるでしょうが、錦織はジュニア時代からずっとウィルソンのトップヘビーのシリーズのラケットを使い続けているので、プロストック品もトップヘビーであることはほぼ間違いないのではないかなあと推測しています。

ちなみにてにおじは錦織が2010年ごろに使用していた↑のラケットを使ったことがあるのですが、あまりの独特のバランスに2スイングくらいで絶対使えないと思ってしまったのをとても強く覚えています。。。

  • バックハンドを軸にした高速攻撃ストローカー
  • ドロップショットをはじめとする多彩な戦術を持つ戦術家

コメント

  1. […] 1回戦、2回戦とフルセットを続けてもケガがなかったのはファンとしては朗報で、これから錦織独自のスピードテニス(詳しくはこちらの錦織解説記事参照)が見れることにワクワクしながら応援を続けていきたいと思います! […]

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