ダニール・メドベージェフ の強さ 徹底解説【暖簾に腕押しテニス】

選手解説

2019年ごろから頭角を表し始めたロシアンシコラー ダニール・メドベージェフ。この記事を書いている時点(2021年9月)でジョコビッチに次ぐ世界ランキング2位を記録している実力者。しかし、この選手は派手さが全くなく頑張って観察しないとなぜ勝っているのか、なぜ強いのか本当にわかりづらいテニスをしています。今回はそんな一般ウケしづらいメドベデフの強さについて解説していきたいと思います。

この記事でわかること

  • メドベージェフの戦力分布詳細
  • なぜメドベデフは強いのか
  • メドベージェフに学ぶ”遅くて威力の低いボール”の使い方

10段階評価の考え方

選手評価の記事では共通して以下の10段階評価を用いて解説していこうと考えています。

★×1 :ATPツアー内で最下位レベル
★×2 :ATPツアー内で下位レベル
★×3 :かなりのウィークポイント:相手は積極的に狙う
★×4 :ややウィークポイント:相手は余裕があれば狙う
★×5 :世界で標準的なレベル
★×6 :世界で100位レベル
★×7 :世界で30位レベル
★×8 :世界で10位以内レベル
★×9 :世界でトップレベル
★×10:世界No.1レベル

能力評価

男子選手にしては珍しく、バックハンドを得意にしています。試合は硬いディフェンスを軸に着実にポイントを積み重ねつつ、要所でネットプレーなども効果的に組み合わせるというスタイルをとっています。

フォアハンドストローク:★★★★★☆☆☆☆☆
バックハンドストローク:★★★★★★★★★★
サーブ        :★★★★★★★★★☆
リターン       :★★★★★★★★★★
ネットプレー     :★★★★★★★★☆☆
タッチ        :★★★★★★☆☆☆☆
パワー        :★★★★☆☆☆☆☆☆
スピード       :★★★★★★★★★★
戦略         :★★★★★★★★★★
キャッチコピー    :暖簾に腕押しテニス

てにおじ
てにおじ

かなり変則的なプレーをする選手です。一見するとビッグショットを持っていないので強く見えないのですが、目を凝らすと随所に戦略やスキルを見ることができます。

フォアハンドストローク

メドベージェフのフォアハンドは特に相手に脅威を与えるショットにはなっていません。また、展開の幅としても深くクロスコートへ返球するか、タイミングを早めてストレートへ展開かの2択が中心です。
また、守備を基本としたプレースタイルとも相俟って、フォアハンドの打点は基本的に遅め(ボールを落としがち)で、展開力も低いです。相手からすると安定はしているという印象のみにとどまっています。

メドべデフがこれから絶対的な世界のトップになるに向けて、間違いなく伸び代のあるショットです。

バックハンドストローク

こちらはフォアハンドとは対照的に攻撃力・守備力・ショットバリエーションすべてを兼ね備えたショットになっています。打ち方が独特なのであまりうまく見えないこともありますが、非常に高い技術を持っています。間違いなくメドベージェフの強さを支えるショットになっています。

メドベージェフのバックハンドで特徴的なのは男子選手にしては非常に珍しく、バックハンドの逆クロスを効果的に使えている点です。

流石にフォアハンドの回り込みのように大胆な回り込みはありませんが、センターマークよりも若干フォアサイドよりのボールに対してバックハンドを使って逆クロス方向へ展開していきます。
メドベデフのストレート方向へのショットはフラット~若干のスライスとなっており、相手のフォアサイドに逃げていくショットとなっており、非常に効果的です。

相手をフォアサイドのコート外に追い出すという点では基本的な効果はフォアハンドのクロスと変わりませんが、1つ大きく異なるのが打球が低い点です。体から遠くかつ低いボールというのは相手からすると非常に対応しづらく、バックハンドの逆クロスの次のショットを非常に優位に進める展開力を持っているショットです。

そして、ディフェンスの際には打点を通常よりも体に引き付けて、コースを読みにくく、少しでもボールの返球を遅くするというかなり特殊なスキルも使っており、これはトッププロではメドベージェフくらいしかやってるのを見たことがありません。本当に独特なスキルを持った面白い選手です。なんかやけに窮屈そうに打ってるなぁと見ながら思ったときは大体これ使ってます。

サーブ

メドベージェフのショットの中で最もきれいなフォームをしているショットがサーブです。
男子にしてはこれも珍しく、トスを上げた後に一旦ヒザがカクンとなる独特のリズムの取り方をしています。(このサーブのリズムの取り方は女子選手に多いタイミングの取り方)

2m近い高身長を活かし、広角にサーブを打ち分けられています。特にアドサイドからワイドへのフラットサーブは高身長のサーバーらしく鋭角に高速サーブを打ち込むことができており、いい意味で特徴の少ないショットです。

リターン

非常に高い技術を持っています。ただし、技術の高さは目立ちづらいです。
メドベージェフのリターンはまず確実に相手コートに攻撃されないショットを返球することに重きが置かれており、攻撃されないリターンをしっかり返したのち、得意のラリー戦で勝負しようとしています。

少しでもリターンを返しやすくするために、リターン位置はかなり後ろです。ATPツアーの中でも1,2を争うくらい後方に構える選手で、まるでクレーコートでのリターンゲームのような立ち位置をハードコートの試合でも見せます。
一般的にリターンポジションを下げると、相手に時間を与えてしまうので、3球目攻撃やサーブ&ボレーに弱くなりがちなのですが、メドベージェフは軌道の低いショットを持ち球にしているため、相手はなかなか3球目を攻撃につなげることができません

ネットプレー

基本的には守備型の選手ですが、威力のあるサーブを絡めたネットプレーも効果的に見せます。フォアハンドの攻撃力の低さなどから、3球目攻撃をそれほど展開の軸とするような選手ではありませんが、ネットプレーを絡めることでこれを攻撃力の低さを補完し、メドベージェフを単なるシコラーで終わらせません
シコラー相手には簡単なミスは厳禁なことから、相手はリターンゲームでは「まずはリターンをしっかり返し、そのあとの展開で勝負しよう」と考えますが、そこへネットプレーが組み合わさると、リターンゲームの難易度は跳ね上がります。

また、セカンドサーブからのサーブ&ボレーなど相手の意表を突くタイミングでのネットプレーも効果的に取り入れており、とにかくネットをポイントに絡めることで相手に簡単にプレーさせないようにしようという意図が非常によくわかります。

タッチ

一般的なレベルです。フォームが独特なため、タッチが悪く見えてしまいがちですが、男子プロとして一般的なレベルのタッチは持ち合わせており、小技も普通にこなしています。

パワー

ありません。プレースタイル自体が現代テニスの「強く・早く」の真逆を行く「遅く・ゆっくりと」をコンセプトとしており、球威のある球で相手を押し込もうということをそもそも考えていないように見えます。

ただし、サーブに代表されるように、力を集中させてボールのスピードを上げるという技術は持ち合わせているので、早いボールを打つこと自体が全くできないわけではありません。女性プレイヤーなど、非力な方はメドベデフのフォームは実は参考になる部分が多いと思います。

スピード

シコラーには必須の能力。もちろん持ち合わせています。
単純な足の速さもありますが、手足の長さもあるため見た目以上に守備範囲が広く、ポジションを下げられると相手は本当にどこへ打ったら決まるのか悩んでしまうはずです。

さらに、返せないボールでもギリギリまで常に追いかけており、この姿勢も相手にとっては「次は取られるかもしれないからもっといいコースへ展開しないといけない」という心理的プレッシャーを与えています。これも派手さはありませんが、拮抗した試合では間違いなく効果があります。

シコラーに必要なスピードの要素を余すことなく持っていますが、やはりフォアサイド側の攻撃時のポジション取りについてはもう一歩コート内へ展開が足りない場面が目立ち、改良の余地ありということで★を9つにしました。

戦略

まさに「暖簾に腕押し」を体現するようなプレースタイルですが、ただ単に相手の攻撃を受けているだけではなく、相手が攻めづらい環境を作る、派手さはないが相手にとって脅威になるショットを放つ、という非常にレベルの高い戦略の上にプレースタイルが成り立っています。非力な方にもメドベデフのプレースタイルは参考になる部分が多いので、ご紹介する戦術以外にもぜひメドベデフの長所を見つけてみてください!ここでは代表的な3点をご紹介します。

ポジション取りのうまさ

メドベージェフはATPツアーの選手の中でもポジションをかなり極端に上げ下げする選手です。
一般的なディフェンスのためにポジションを下げる、オフェンスのためにポジションを上げる。に加えて、ジョコビッチの強さ解説の投稿でお話ししたディフェンスのためにポジションを上げる、これらをすべて使いこなしています。

一般的に守備を主体とする選手はポジションを上げることがあまり得意でないことが多い中、(ベースラインの後ろにいた方が気分がいいので)メドベージェフは守備を主体とする選手ながら常に適切にポジションを上げ下げできています。

中でもバックハンドを絡めたパターンの中でのポジション取りはとても効果的で、この記事でもご紹介したバックハンドからのクロス/逆クロスを使用して相手のポジションを下げた後はしっかりとステップインし、その後の展開をより優位なものにしていっています。

バックハンド逆クロス

バックハンドのセクションでも触れましたが、メドベージェフは2020年代の選手の中で最もバックハンドの逆クロスを効果的に使えている選手です。
一撃でエースになることが多いショットではないので、これも派手さがないのですが、メドベデフらしい非常にいやらしい球種です。
相手からすると返球する際にはフォアハンドの低い打点の処理を強いられます。フォアハンドの体から離れた低く強いボールというのは非常にコントロールが難しいショットで、ミスショットになったり、返球が浅くなったりしがちです。

加えてこのショットを受けた相手からの返球はネットの低い位置からになるため、自然と軌道も高い返球になりやすく、メドベージェフはこの返球に対してステップインし、より厳しいコースへ展開していくことで自分の形を作っていきます

メドベデフはラリーをいつの間にか自分の形にしているというのはよくあることですが、得意パターンの一つとして、ここで紹介したバックの逆クロスを使用しています。

低く・長く・ゆっくりと

相手の時間をいかに奪って早く展開するかということが主流の現代テニスにおいて、メドベージェフが実践するテンポのゆっくりとしたラリーは彼のもっとも特徴的な点です。

中でもコート後方にからディフェンスを目的に使用するドフラットのネットの近くを通すゆっくりとした返球は相手の攻撃を非常にうまくかわすことができています。とても興味深いショットなので詳しく解説します。

一般的に守備のボールには2種類あり、一つはスライス、もう一つはムーンボールです。

スライスでの守備の特徴はボールの遅さと低さで、メリットとしては効果的に使うことができれば、相手は低く弾まないボールをネットの下から持ち上げる必要があるため、攻撃を続けることが難しい点です。
逆にデメリットとしてはネットを絡めた攻撃に弱い点です。ネットの低い位置を通すものの、足元に沈めることがほぼ不可能かつ、空中での変化が少ない、遅いショットのため、スライスをボレーでカットすることはとても簡単です。
また、スライスはトップスピンとも構えが違うことからコート後方でスライスの構えをすると相手にネットにプッシュするきっかけを作ってしまうというデメリットもあります。

ムーンボールでの守備はナダルがよくつかうアレで、こちらも守備のボールのため球足はそれほど速くなく、時間を稼ぐことができます。また、トップスピンがかかっていることから空中でのボールの変化が大きく、足元に沈むこともあるため簡単にはネットをとりづらいことや、ネットの高い位置を通すことからミスする確率を抑えることができるといったメリットがあります。
一方でデメリットはライジングでの展開に弱い点です。ムーンボールはライジングでコートの中でとらえられると相手から高い打点で打ち込まれてしまい、非常に苦しい展開になってしまいます。

どちらも一長一短なディフェンスショットですが、それらの長所を兼ね備えたディフェンスショットがあります。それがメドベデフが効果的に使う遅くて長いフラットボールです。

メドベージェフが放つフラットのディフェンスボールにはこれといった弱点がありません。スライスではないのでネットも取りづらく、低い軌道のため高い打点から展開されることもありません。さらにメドベデフのバックハンドは非常に懐が深く、コースが読みづらいので、より一層攻めづらいです。

ただし、そもそもディフェンスをせざるを得ない体勢からネットの低い位置を通すフラットを放つということ自体の難度が非常に高いので、このディフェンス手法を取るのはATPツアーでも限られた選手しかいません。(メドべデフ以外だとシモン、マナリノ、ククシュキンあたりですかね?一気にオタクっぽくなりました)

使用ギア

ラケット:Tecnifibre T-Fight 305 XTC

ガット:Tecnifibre レーザーコード/アイスコード テンションがわかりませんでした(でも高くはなさそうですよね)
ウェア:ラコステ
シューズ:ナイキ

テクニのラケット使用者はそれほど多くないので珍しい印象があります。ただ、メドベージェフが活躍し始めたころからか、T-Fightシリーズをよく見るようになりました。少し前までティプサレビッチとラケット変えまくるおじさんのベルダスコ(初期)くらいしかトッププレイヤーでは使用者いなかった気がします。

  • バックハンドを軸にする守備型の選手
  • 遅くて威力の低いボールをとてもうまく使用している


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